つぎはコレ読みたい ~積ん読は積ん徳なり~

積ん読は積ん徳。駆け出し翻訳者が毎月「コレ読みたい!」新刊本を紹介しています。ミステリ全般、コージーミステリ、SF&ファンタジーを中心に。

気になる新刊 ~2023年5月~

さて、5月刊行分です。

 

『Murder Off the Books』 by Tamara Berry

シリーズ:By the Books #3

カテゴリ: コージーミステリ

 

 シングルマザーでベストセラー作家のテスは、亡き祖父から相続した店を書店に生まれ変わらせることにした。開店と同時に新著の発売イベントを開いて地域住民とマスコミにアピールする計画を立てた。ところがその前夜、テスの母親が恋人といっしょに訪ねてきた。この恋人というのが、夫に先立たれた中高年女性3人の死にかかわったことが疑われているリヴァイ・パーカーだと気づいたのは娘のガートルードだ。

 テスはすぐにボイド保安官にこのことを知らせたのだが、手遅れだった――当のリヴァイが死んでいるのが見つかり、母バーナデットが容疑者となってしまう。テスは必死に無実を証明しようとするが、偶然に偶然が重なってますます印象は悪くなっていき……。

 

 家や商売を疎遠だった親族から相続して人生再スタート、しかもティーンエイジャーの子を持つシングルマザー、といかにもコージーミステリらしい設定ながら、主人公が作家というのはめずらしいかも? 現実の事件を目のまえにして「こんな展開をプロットにしても、有り得なさすぎて編集者に却下されちゃう!」とか言いそう。

 シリーズ1作目の『Buried in a Good Book』は2023年度エドガー賞リリアンジャクソン・ブラウン・メモリアル賞を受賞。同賞の候補に残っていたロバート・ソログッド『マーロー殺人クラブ』(アストラハウス)はいち早く翻訳が出ましたね(髙山祥子訳)。

 

つづいてスリラーを。

『Beware the Woman』 by Megan Abbott

シリーズ:non

カテゴリ:スリラー

 

 「あなたが欲しいものはぜんぶ、手に入れてあげたいわ」と母から言われて育ったジェイシーは、ようやくその願いがかなったと思った。結婚して、お腹には赤ちゃんもいる。夫ジェドの父親を訪ねて森のなかのコテージにやってきたジェイシーはあたたかく迎えられ、愛情に包まれていると感じた。ひとつ不安があるとすれば、この家の家事をしてくれているミセス・ブラントの得体の知れなさくらいだった。

 だがわずか数日でジェイシーが体調を崩すと、予定していたお楽しみはすべてキャンセルされ、みながジェイシーを心配するようになった。さらに、ずっと前に亡くなったジェドの母親や家族の複雑な事情がいまになって影を落とすようになり、ジェイシーはコテージに囚われているような感覚に襲われる。ただの思い過ごしなのか、それとも必要な備えをかたくなに拒んできた報いなのか……?

 

 愛する人と結婚して子供ができて、というタイミングはしあわせの絶頂であると同時にふとしたことで不安を覚えたらあれもこれも心配になって落ちつかなくなってしまう危うい時期でもあるわけで。そんな心理状態にあるときはなんでもかんでもあやしく思えたりして、かなり「信頼できない語り手」ではありますね。

 パブリッシャーズウィークリーがこの夏のBest Readsに、TIME誌もこの5月のBest Booksに選ぶなど、かなり話題になっているようなのも期待が高まります。

 

そしてSFからはこちら。

『The Ferryman』 by Justin Cronin

シリーズ:non

カテゴリ:SF

 

 崩壊しつつある外界から切り離されたプロスペラ群島の住人は、じつに恵まれた、充実した毎日を送っている。心身の健康状態は前腕に埋め込まれたモニターによって日々チェックされ、その数値が10%を切ると〈育成室(ナーサリー)〉と呼ばれる島に行って肉体も精神も一新された状態にもどって長い人生を再スタートする。

 社会契約局の職員プロクター・ベネットはフェリーマンとしてこうしたリタイアする人たちの世話をする仕事には満足していた。だがそれですべてこともなし、とは言えない。プロスペラではありえないはずの「夢」を見るようになっていたのだ。さらに、彼のモニターの数値が急激に下がってきていた。やがて彼の父親をリタイアさせる日が来ると、父は謎めいた暗号のようなメッセージを残してフェリーに乗りこんだ。

 その一方で、プロスペラの運営にかかわるサポートスタッフたちは、自らの役割に疑問を持ちはじめていた。住民のあいだに動揺が広がり、〈到達者(アライヴァリスト)〉を名乗る抵抗集団が革命をもくろんでいるといううわさが広まりだした。

 

 離れ小島で健康に留意して暮らす人々が実は……というと映画『アイランド』を思い出しますが、本作の島に隠された秘密とはなんなんでしょう? こういう場合、金持ちや権力者のための「予備」あつかいされてたりしがちですよね。それでいうとカズオ・イシグロ『わたしを離さないで』とも似てるかしら。

 著者はスティーブン・キングらが絶賛したドラマシリーズ『パッセージ』(リドリー・スコット製作総指揮、20世紀フォックス)の原作を書いた人。小説のほうは邦訳がないみたいですが、吸血鬼×パンデミックなんてウケそうなのにねぇ。

 

5月にはこのほか、〈マーダーボット・ダイアリー〉が大ヒットしたマーサ・ウェルズが今度はファンタジーに挑んだ『Witch King』も発売されました。

 

 さて、この勢いに乗って6月の新刊チェックも進めますよ! この時期になるとあちこちの出版社や新聞雑誌も夏向けの読書リストを出してきますね。欧米と違って夏休みが短い人の多い日本では夏休みだからといってなかなか読書時間が確保できなかったりしますが(読書以外にもやりたいこといっぱいあるし)、まあ夏のあとには読書の秋が来るんだし、その前には梅雨で外出したくない日もあるでしょうから。

 

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