つぎはコレ読みたい ~積ん読は積ん徳なり~

積ん読は積ん徳。駆け出し翻訳者が毎月「コレ読みたい!」新刊本を紹介しています。ミステリ全般、コージーミステリ、SF&ファンタジーを中心に。

気になる新刊 ~2022年3月~

 花粉症持ちにはお辛い季節だと思いますが、やっぱり春はいいですねぇ。なにか新しいことを始めたくなったり、これまでやってきたことを見直して軌道修正したりするにはちょうどいい節目だったりします。もしも学校が秋始まりになったらこんな気分も違ってきたりするのかしら?

 

 さて今月はサスペンスものから。

『The Empty Room』 by Brian McGilloway

シリーズ:

カテゴリ:サスペンスミステリ

 

 ある朝目覚めたパンドラは、ゆうべパーティに出かけた17才の娘エリーが帰宅していなかったことに気づく。長距離輸送トラックの運転手をしている夫エイモンはすでに仕事に出てしまっていたので、パンドラはひとりで娘を探しはじめる。まず手始めはエリーの友人たちに電話することからだ。彼らの誰もエリーの行方を知らないとわかってパンドラは焦りだす。地元の病院やエリーの通う美術大学にも問い合わせるうちに警官が家を訪ねてくる――道路わきの待避所で見つかったエリーのハンドバッグを持って。

 新たな情報もないまま気をもみつづけるパンドラとは対照的に、夫はたいして気にかける様子もない。そんな夫との関係に疑念が生じたことから、自分の家族やこれまでの人生をふりかえるパンドラ。警察の捜査にも不信が募りはじめ、自らエリーを見つけなくては、と自分を追い込んでいく――たとえこれまでの人生を、愛した人たちを、引き裂くことになっても。

 

 作者ブライアン・マギロウェイは北アイルランド出身で、現在も地元の大学で英語を教えている。デビュー作『国境の少女』(ハヤカワ・ミステリ、2008)はCWAの最優秀新人賞のショートリストに入った。このデヴリン刑事もののほかにももう1つシリーズもの、単発ものなど順調に作品を発表しているが邦訳はこの1冊だけしかないみたい。

 何かしら賞をとるかせめてショートリストに入れば翻訳される可能性は高まるけど、それだけでは後続作品まで出せないのが厳しいよね。ただ、英米読者と日本の読者の好みの違いもあるし、賞にかすりもしない作品でも刺さるものはあるはず、と信じて発掘を続けたい。

 

今月はC.J.ボックスの〈猟区管理官〉シリーズ22巻『Shadows Reel』も出ますね。こちらは版元が代わっても邦訳が続いている幸運なシリーズ。どうぞ末永く。

 

 お次は表紙にネコがいるだけですでにほっこり気分なコージーを。

『A Spoonful of Murder』 by J.M.Hall

シリーズ:

カテゴリ:コージーミステリ

 

 小学校教員を引退したリズ、テルマ、パットの3人は毎週木曜日の午後、カフェに集まっておしゃべりするのを楽しみにしている。あるとき彼女たちは元同僚のトプシーと鉢合わせしたが、なんと翌週にはそのトプシーが死んでしまった。ただの死ではないことを嗅ぎとった3人はなんとか隠された秘密を解き明かそうとする。

 

 元気なお年寄りが活躍するミステリはいくつもあるけれど、本作のお楽しみは主人公たちが元先生たち、というところ。作者は現役の小学校副校長だというから、きっと「あるある」なエピソードが満載されてるはず。また演劇やラジオドラマの脚本家としても活躍しているそうなので、セリフ回しも面白いに違いないのでは? と期待してます。

 

〈ステファニー・プラム〉シリーズでおなじみジャネット・イヴァノヴィッチの新シリーズ〈ガブリエラ・ローズ〉第1巻『The Recovery Agent』も今月発売。「回収代理人」として失くしものから盗まれたものまで、個人や企業の依頼でなんでも取り返すエージェントのお話だとか。

 

 

 今回ご紹介するSF作品はまるでリゾート施設のような宇宙ステーションが舞台。といってもまだ営業開始前の”ベータ版”で、いわば実験動物あつかい?される科学者たち。

 

『A House Between Earth and the Moon』 by Rebecca Scherm

シリーズ:

カテゴリ:SF

 

 科学者のアレックスはこの20年間、研究対象のスーパー藻類こそが地球の気候変動を解決に導いてくれると信じてきた。だが研究にのめりこむあまり家庭生活は危機に陥り、研究者としての将来をも危うくした。それでも、巨大テクノロジー企業〈センサス〉が研究を支援してくれるとなるとそのチャンスに飛びついてしまった。

 問題は、その研究室の場所というのが、外宇宙に建設された富裕層向けの超高級宇宙ステーション〈パララキシス〉内だったことだ。「パイオニア」と呼ばれるアレックスと6人の科学者たちは、パララキシスの“お試し居住者”でもあるのだ。

 パイオニアたちにはもう1つの隠れたミッションがあった。センサスの雇った社会心理学者テスは、パイオニアたちを観察してそこから人間の行動を予測するアルゴリズムを構築しようとしていた。最初のうちは、いまや全人類が装着しているデバイスを通じて地上から観察していたが、さらに1歩進めるために彼女がパララキシスに乗りこんでくることになった。

 

 科学技術の進歩は人類にとって大きな恵みをもたらすことも多いけれど、社会的合意形成や法整備が追いつかない、というのはすでにあちこちで見受けられる。技術的には「できる」ようになったからといって「やっていい」とは限らないことは多々あるわけで。巨大企業が資金力にまかせて倫理的には疑問符がつくような革新的技術を試そうとする設定はSFではおなじみだが、本作のそれはいったいどんな目論見なのか、どんな結末を迎えるのか、気になりますねぇ。パイオニアたちが地球に残してきた家族との関係性もおりこまれてどんなヒューマンドラマになるかもポイントです。

 

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