つぎはコレ読みたい ~積ん読は積ん徳なり~

積ん読は積ん徳。駆け出し翻訳者が毎月「コレ読みたい!」新刊本を紹介しています。ミステリ全般、コージーミステリ、SF&ファンタジーを中心に。

気になる新刊 ~2023年8月~

8月が終わればもう年末、と言ったのはプチ鹿島さんでしたっけ? 年末かどうかはともかく、1年の2/3は終わってしまいましたねぇ。私は積読の山をほんの少し低くすることができましたが、みなさまはいかがでしょうか。

 

まずはあのコリーン・フーバーやハーラン・コーベンが推薦文を寄せているこちら。

『Gone Tonight』 by Sarah Pekkanen

シリーズ:non

カテゴリ:サスペンス

 

 キャサリンは母親のことならよく知っているつもりだった。物静かで働き者の母は娘の自分のために生きているようなものだ。これまでずっと、ふたりだけで生きてきたのだから。

 ところが、成長したキャサリンがいよいよ独り立ちしようとすると、母ルースは全力でそれを阻止しようとする。口ごたえひとつしたことがなく、母親の過去についてけっして詮索などしたことのない娘だが、離れて暮らすことになれば、こつこつと積み上げてきたふたりだけの世界にひびが入ってしまう。

 ルースの過去を知るものはひとりもいない。親子が数年ごとに引っ越しをくりかえす理由も、いつでも予告なく引っ越せるようつねに準備している理由も。

 

 すでに数多くの著作があるベテラン作家ながら既訳があるのは『完璧すぎる結婚』(二見文庫ザ・ミステリ・コレクション、風早柊佐訳 2021)一作。ようやく発見された? 評判はまずまずよさそうだし、こちらも邦訳されるかも。楽しみです。

 既訳のある作家さんたちによる今月発売の新刊も盛りだくさんですよ!

 

『彼と彼女の衝撃の瞬間』『彼は彼女の顔が見えない』のアリス・フィーニー。

ジェームズ・パターソン、長らく邦訳が出てないみたいですが、お元気のようです。

『鹿狩りの季節』のエリン・フラナガン

みなさんご存じ、カリン・スローター〈ウィル・トレント〉最新刊!

アン・クリーヴスの新刊は『哀惜』の続編。

 

さてお次は、あの大人気シリーズを思い起こさせるコージー

『A Fete Worse than Death』 by Tia Brown

シリーズ:Lucy Williams #2

カテゴリ:コージーミステリ

 

 夫をがんで亡くしたあと娘のグレイシーを育てるルーシーは今でこそ在宅で働くシングルマザーだが、前職はじつはスパイだ。どんな銃器でも車両でもあやつれるスキルがあるのに、そのどれも母親業の役には立たない。

 イケメンふたりに言い寄られることも想定してなかったけど、それ以上に想定外なことに、近所の遊び場で死体を発見してしまった。もしかして以前の仕事にもどれるチャンス?

 そんななか、娘の学校で催されるお祭りでケーキ屋台をすることに。はたして事件を解決し、ケーキを売り切ることができるのか?

 

 元スパイが主人公のコージーミステリと言えばジャナ・デリオンの〈ワニの町へ来たスパイ〉、通称ワニ町シリーズが好評ですね。あちらはおばあちゃんパワーが炸裂するのが痛快ポイントですが、はたして子育てママはスパイのスキルをどう活かす?

 

最新の第6巻が出たばかりの〈ワニ町〉シリーズはこちらから。

https://www.amazon.co.jp/dp/B09CL8K25L?binding=kindle_edition&searchxofy=true&qid=1693556566&sr=1-1

 

そしてローラ・チャイルズ〈お茶と探偵〉の新刊も。

 

エミリー・セントジョン・マンデル『ステーション・イレブン』やローラ・デイヴ『彼が残した最後の言葉』のファンに、とありますが……

『The Great Tansition』 by Nick Fuller Googins

シリーズ:non

カテゴリ:SF

 

 世界を救うのに一役買った両親のもとに生まれたエミは、何かというと「気候危機の後に生まれてよかったね」と言われることにうんざりしていた。しかし気候危機の元凶とされる十数人が衆人環視の中で暗殺されると、容疑者となった母クリスティーナが失踪した。エミは父ラーチとともにグリーンランドの首都ヌークを発ち、廃墟から高潮に対する前線拠点へと復興した人もまばらなニューヨークに向かう。

 三十年まえ、ラーチは海面上昇と暴風雨に翻弄されるニューヨークにボランティアとしておもむいた。そのころクリスティーナは荒野と化した西部で山火事と戦っていた。彼らは新しい社会を目指した〈グレート・トランジション〉と呼ばれるムーブメントにかかわっていくなかで出会ったのだ。

 

 気候変動による災害が激化してきているいま、世界中で対策が叫ばれているのにもかかわらず、人々の行動にはなかなか結び付きませんね。それどころか炭素排出量が増えるようなことばかり聞こえてきます。地球の気候には国境などないのに、全世界が一丸となるのはいつになることやら。いろんな可能性を、人々が我が事として考えるきっかけとして示してくれるSF小説も増えてきましたが。。。

 

 

 やっかいな病気が見つかってもうすぐ1年、手術と一通りの標準治療を終えて経過観察に入りました。病人とは思えないほど元気です。50を過ぎてとっくに人生後半になっているとはいえ、そんな実感もなく過ごしていたのが、にわかに終わりを意識するようになった1年でした。そんななかでも翻訳者としてデビューにこぎつけたからにはまだまだ訳していきたいと欲も出てきたところ。忙しくなってきたわよ~!

 

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気になる新刊 ~2023年7月~

関東もついに梅雨明けしたらしいですね。いったいどこまで暑くなるやら・・・恐ろしい。

夏休みがある人もない人も、どこかへ出かけたりしないで、クーラーの利いた室内で読書に励むが吉ですよ。

 

今月も注目の3作、まずはカバーが爽やかなスリラーから!

『The Block Party』 by Jamie Day

シリーズ:non

カテゴリ:ミステリスリラー

 

 アルトン・ロードのクルドサック(通りぬけできないようになった路地を囲む住宅地)に住む住人たちは、毎年夏になると〈ブロックパーティ〉を開いて親交を深めていた。だが今年、パーティで起きた殺人事件によって彼らはたがいが隠してきた秘密に絡めとられてしまった……。

 誰が、なぜ、そんなことをしたのか――発端は1年まえにさかのぼる。あのときすでに、対立と裏切りの種は撒かれていたのだ。

 

 デビュー作ながら、『完璧な家族』や『噤みの家』が評判のリサ・ガードナーが推薦の言葉を寄せるなど注目の作家。近所づきあいはどこでも絶妙に気を遣うものだけど、クルドサックというとまあまあ高級住宅地といってよくて、それなりに収入のある人たちが住んでいると思うと隠し事もそれなりにあったりするんでしょうねぇ、と想像しちゃいます。

 

お次はベテランが放つ新シリーズ!

『A Cryptic Clue』 by Victoria Gilbert

シリーズ:Hunter and Clewe Mystery #1

カテゴリ:コージーミステリ

 

 60才になって大学図書館司書を早期退職したジェーン・ハンターは、やりがいを感じつつも乏しい年金の足しになる仕事を探していた。いっぽう、33才のキャメロン(キャム)・クルーは増え続ける希少本と美術工芸品を整理してくれるアーキビストを探していた。

 無事キャムに採用され、彼の膨大なコレクションをまえにして興奮冷めやらぬジェーンだったが、早々に彼の図書室で死体を発見してしまう。死んでいたのは医薬品業界で財を成した一家の跡取り娘――キャムの直近の元恋人だった。

 真っ先に容疑を持たれたキャムは持ち前の知性と推理力で汚名を晴らすことを誓ったものの、根っからの外出嫌いで心配性なうえに人付き合いもヘタクソな彼が頼ったのはジェーンだった。

 

 高齢者というにはまだ若く好奇心いっぱいのジェーンと、頭はよさそうだけど明らかにクセの強いモテ男キャムが事件に挑む新シリーズ。自身も作家兼図書館司書だという著者はこれまでにも図書館や本好きが集まるB&Bを舞台にしたコージーミステリを書いてきたベテラン。今回は探偵役が異色のコンビというところが注目ポイントかな?

 

最後は背筋も凍るディストピア?!

『ONE』 by Eve Smith

シリーズ:non

カテゴリ:SF

 

 極端な気候大変動に翻弄された結果、全体主義が台頭したイギリスでは国民に厳しい一人っ子政策が押しつけられた。“余分な”赤ん坊は中絶され、強制的に避妊インプラントを施されるのがあたりまえになった。世界中に混乱が広がる中、誰もが厳格な配給割り当てに従わざるを得なくなった。

 25才のカイは〈ベビー・リーパー(乳児収穫人)〉として〈人口家族計画省〉で働いている。受け持ちの家族がふたり目の子供を持とうとすれば、その代償はきっちり払ってもらう。

 ある朝カイは、省が用意した粛清リストに載った違法児が自分の妹であることを知った。誰かに知られて両親が厳しい処罰を受けるまえになんとかしなければ。だが調査を進めるうちに、彼女がもっとも信頼してきた家族がいくつもの非情な犯罪を犯してきたことがわかってくる。そしてついに、政府をも揺るがす秘密を探り当ててしまう。

 

 この作家さんの過去作『The Waiting Rooms(2020)』も『Off Target(2021)』も積んであるんですが(早く読もう)、またしても胸をざわつかせるあらすじです。シリーズではなくそれぞれスタンドアロンなのでどれから読んでもいいのですが、こんなに立て続けにアンテナにひっかかってくる作家さんは早く読まないと・・・。

 

さて、私は一通りの治療を終えて体力も戻ってきたところです。入院中は上げ膳据え膳でほかにやることもなく読書がはかどりましたが、自宅では家事担当責任者としてがんばりたいところでもあり、とはいえ仕事はややセーブしてるので本を読む時間くらいはなんとか確保できるはず・・・と揺れながら前に進んでいます。

そしてもう間もなく、うれしいお知らせをお届けできるはず・・・ああじれったい!

 

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気になる新刊 ~2023年6月~

ついに点滴治療も最終回を終えて、前回の手術で取り残してあったところをどうするか、となったんですが。あらためてCT検査とかで確認し、これなら取れそうだとなったのはよかったけれど、思いがけず早い時期に手術できることになって急遽入院が決まったのが6月なかば。

前回の手術はやると決まってからも病院側のシフトやなんかの都合でほぼ1カ月後だったのに、なんと今回は「来週できますよ」って!!

いや早いに越したことはないんで大歓迎です。幸い、仕事の都合やらなんやらも問題なし、すぐに手続きしてサクッと切ってもらってきましたよ。

 

てことでお待たせしましたの6月分です。

定番中の定番ともいえるコージー

『How the Murder Crumbles』 by Debra Sennefelder

シリーズ:Cookie Shop Mystery #1

カテゴリ: コージーミステリ

 

 州内全域から買い物客があつまるウィンゲートでクッキーショップを営むマロリー・モンローの目下の悩みは、どうにも使い物にならない従業員と、別の女といっしょにいるのを見つけてしまった恋人、そしてフードブロガーのベアトリスと大げんかしているところを人に見られてしまったこと。

 そのベアトリスが店の厨房で死んでいるのを見つけてしまって大ピンチ! 死体には小麦粉がぶちまけられ、そばにはマロリー愛用のめん棒が血まみれになって転がっていて……。

 

 みんな大好きクッキー屋さん、といえば〈お菓子探偵ハンナ〉シリーズが順調に翻訳されてきています。似たような話はそんなにいらない? でもどうせ読むならおいしいものが出てくるほうがよくない? クッキー屋さん以外にもベーカリーやダイナー、カフェ、ケータリング・・・主人公の職業が同じ設定のコージーミステリは山ほどあって、翻訳されているものがそのジャンル(?)でいちばん面白いシリーズかというと、かならずしもそうじゃないわけで。あとから出てきたシリーズがどれも二番煎じなんてこともないので、とにかくもっと読まれてほしいーーー!

 

ぞくぞくのスリラーですよ。

『The Quiet Tenant』 by Clemence Michallon

シリーズ:non

カテゴリ:スリラー

 

 勤勉で家族想いのエイダン・トーマスは、困っている人がいれば手を差しのべるような、地域社会のなかでも尊敬を集める人物だ。そしてまた、これまで8人の女性を誘拐し殺してきたシリアルキラーでもある。裏庭の物置小屋には5年前から9人目の犠牲者レイチェルが閉じこめられている。

 妻が死んだとき、エイダンと13歳の娘セシリアは転居せざるをえなくなった。レイチェルもいっしょに連れていくため、娘には一時的に預かることになった家族の友人として紹介した。5年も監禁されていた彼女はもはや逃げる気力もないはずと思っていたのだが、レイチェルはあきらめずに機会をうかがっていたのだ。

 地元でレストランを経営するエミリーが“好人物”エイダンに惹かれてアプローチしてきたことから、エイダンは秘密を隠し通せなくなってくる――。

 

 3人の女性たちの視点から描かれるスリラー。捜査官や被害者の視点、なにも知らずに近づいてしまう第三者の視点でシリアルキラーを語るのはよくあるけど、犯人の子供目線というのは? しかも多感な時期のローティーンの目に映る父親像が展開とともにどうなっていくのか、恐ろしいけど見てみたい。

 

 今月はこのほかにカリン・スローターの〈ウィル・トレント〉シリーズ11巻となる『After That Night』、S.A.コスビー『All the Sinners Bleed』も出ましたね。このあたりは既刊の人気ぶりからして待っていればそのうち翻訳がでそうなので、楽しみに待つことにしましょう。〈ワシントン・ポー〉シリーズでがっちり読者をつかんだM.W.クレイヴンの『Fearless』はアメリカの連邦保安局の元捜査官を主人公とする新シリーズ。ピーター・スワンソンやクリス・ウィタカーも絶賛するスリラーは翻訳されるかしら……?

 

そしてちょっと奇妙な味?のSF。

『Interviews with the Temporally Displaced』 by Shawn Wayne Langhans

シリーズ:non

カテゴリ:SF

 

 人間が瞬間的に別の場所に移動するテレポーテーションを経験する人はきわめてまれだ。そしてそんな経験は、なかなか他人には信じてもらえない。ステフォン・キングは、そんな空間のすきまを通りぬけてしまった人たちに会いに行く。自ら望んだわけでもないのにある場所から別の場所へと瞬間移動してしまった人たちをルイジアナからカリフォルニアまで訪ね歩き、彼らの話を信じようとするステフォンだが、やがていくつもの矛盾があることに気づきはじめる。彼は自分の正気を保つことができるだろうか。

 

 テクノロジーとしてのテレポーテーションをあつかうSF作品だとその原理をどう説明するかとか、そのテクノロジーが確立したことであらたに生まれる問題にどう対処するかとかに焦点がいくでしょう。超能力の一種としてそれができてしまう個人がいる、という設定もある。でもごくまれだとはいえ“自然現象”として起きてしまうテレポーテーションは? 自然現象というより怪奇現象かもしれないけど。で、それが“ホンモノ”なのかどうかを探っていった先には――これは気になるじゃありませんか。

 

さて7月の新刊もさっそくチェックしに行かなくちゃ!

 

 

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気になる新刊 ~2023年5月~

さて、5月刊行分です。

 

『Murder Off the Books』 by Tamara Berry

シリーズ:By the Books #3

カテゴリ: コージーミステリ

 

 シングルマザーでベストセラー作家のテスは、亡き祖父から相続した店を書店に生まれ変わらせることにした。開店と同時に新著の発売イベントを開いて地域住民とマスコミにアピールする計画を立てた。ところがその前夜、テスの母親が恋人といっしょに訪ねてきた。この恋人というのが、夫に先立たれた中高年女性3人の死にかかわったことが疑われているリヴァイ・パーカーだと気づいたのは娘のガートルードだ。

 テスはすぐにボイド保安官にこのことを知らせたのだが、手遅れだった――当のリヴァイが死んでいるのが見つかり、母バーナデットが容疑者となってしまう。テスは必死に無実を証明しようとするが、偶然に偶然が重なってますます印象は悪くなっていき……。

 

 家や商売を疎遠だった親族から相続して人生再スタート、しかもティーンエイジャーの子を持つシングルマザー、といかにもコージーミステリらしい設定ながら、主人公が作家というのはめずらしいかも? 現実の事件を目のまえにして「こんな展開をプロットにしても、有り得なさすぎて編集者に却下されちゃう!」とか言いそう。

 シリーズ1作目の『Buried in a Good Book』は2023年度エドガー賞リリアンジャクソン・ブラウン・メモリアル賞を受賞。同賞の候補に残っていたロバート・ソログッド『マーロー殺人クラブ』(アストラハウス)はいち早く翻訳が出ましたね(髙山祥子訳)。

 

つづいてスリラーを。

『Beware the Woman』 by Megan Abbott

シリーズ:non

カテゴリ:スリラー

 

 「あなたが欲しいものはぜんぶ、手に入れてあげたいわ」と母から言われて育ったジェイシーは、ようやくその願いがかなったと思った。結婚して、お腹には赤ちゃんもいる。夫ジェドの父親を訪ねて森のなかのコテージにやってきたジェイシーはあたたかく迎えられ、愛情に包まれていると感じた。ひとつ不安があるとすれば、この家の家事をしてくれているミセス・ブラントの得体の知れなさくらいだった。

 だがわずか数日でジェイシーが体調を崩すと、予定していたお楽しみはすべてキャンセルされ、みながジェイシーを心配するようになった。さらに、ずっと前に亡くなったジェドの母親や家族の複雑な事情がいまになって影を落とすようになり、ジェイシーはコテージに囚われているような感覚に襲われる。ただの思い過ごしなのか、それとも必要な備えをかたくなに拒んできた報いなのか……?

 

 愛する人と結婚して子供ができて、というタイミングはしあわせの絶頂であると同時にふとしたことで不安を覚えたらあれもこれも心配になって落ちつかなくなってしまう危うい時期でもあるわけで。そんな心理状態にあるときはなんでもかんでもあやしく思えたりして、かなり「信頼できない語り手」ではありますね。

 パブリッシャーズウィークリーがこの夏のBest Readsに、TIME誌もこの5月のBest Booksに選ぶなど、かなり話題になっているようなのも期待が高まります。

 

そしてSFからはこちら。

『The Ferryman』 by Justin Cronin

シリーズ:non

カテゴリ:SF

 

 崩壊しつつある外界から切り離されたプロスペラ群島の住人は、じつに恵まれた、充実した毎日を送っている。心身の健康状態は前腕に埋め込まれたモニターによって日々チェックされ、その数値が10%を切ると〈育成室(ナーサリー)〉と呼ばれる島に行って肉体も精神も一新された状態にもどって長い人生を再スタートする。

 社会契約局の職員プロクター・ベネットはフェリーマンとしてこうしたリタイアする人たちの世話をする仕事には満足していた。だがそれですべてこともなし、とは言えない。プロスペラではありえないはずの「夢」を見るようになっていたのだ。さらに、彼のモニターの数値が急激に下がってきていた。やがて彼の父親をリタイアさせる日が来ると、父は謎めいた暗号のようなメッセージを残してフェリーに乗りこんだ。

 その一方で、プロスペラの運営にかかわるサポートスタッフたちは、自らの役割に疑問を持ちはじめていた。住民のあいだに動揺が広がり、〈到達者(アライヴァリスト)〉を名乗る抵抗集団が革命をもくろんでいるといううわさが広まりだした。

 

 離れ小島で健康に留意して暮らす人々が実は……というと映画『アイランド』を思い出しますが、本作の島に隠された秘密とはなんなんでしょう? こういう場合、金持ちや権力者のための「予備」あつかいされてたりしがちですよね。それでいうとカズオ・イシグロ『わたしを離さないで』とも似てるかしら。

 著者はスティーブン・キングらが絶賛したドラマシリーズ『パッセージ』(リドリー・スコット製作総指揮、20世紀フォックス)の原作を書いた人。小説のほうは邦訳がないみたいですが、吸血鬼×パンデミックなんてウケそうなのにねぇ。

 

5月にはこのほか、〈マーダーボット・ダイアリー〉が大ヒットしたマーサ・ウェルズが今度はファンタジーに挑んだ『Witch King』も発売されました。

 

 さて、この勢いに乗って6月の新刊チェックも進めますよ! この時期になるとあちこちの出版社や新聞雑誌も夏向けの読書リストを出してきますね。欧米と違って夏休みが短い人の多い日本では夏休みだからといってなかなか読書時間が確保できなかったりしますが(読書以外にもやりたいこといっぱいあるし)、まあ夏のあとには読書の秋が来るんだし、その前には梅雨で外出したくない日もあるでしょうから。

 

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気になる新刊 ~2023年4月~

3月末に大きな仕事に一区切りついて、「ま、一週間くらいはお休みモードでいいよね」とのんびりしていたら、一週間なんてあっという間。

「まあまあ、この半年くらいは入院とか通院をのぞけばほとんど休みなしだったんだし、もうちょっと休んでもいいよね」なんて言いわけしてたら気づけば4月が終わってるし、なんならゴールデンウイークもとっくの昔に終わってました。

体調にはとくに変わりなく、免疫力は落ちてるはずだけど自覚症状もないのでふだん通りに生活してるのに、すっかり怠け癖がついてしまったみたいで、ブログ更新もすっとばしちゃいました。

 

というわけで今回は4月と5月に発売された新刊をつづけて紹介しちゃいますよ~!

まずは4月刊行分のコージーミステリから。

『Ashes to Ashes, Crust to Crust』 by Mindy Quigley

シリーズ:Deep Dish Mystery #2

カテゴリ: コージーミステリ

 

 湖のそばのリゾートタウンでシカゴ風のディープディッシュピザの店を営むディライラ・オリアリーは、店の財政状況を一気に改善すべく、町で毎年催される料理コンテストの優勝賞金に狙いを定めた。最大のライバルとなるのはジュースバーのオーナー、ジョーダンだ。

 ところが、ジュースバーでスムージーを飲んだ客が毒殺されたことから町は大騒ぎになる。誹謗中傷が飛び交い、誰もが怪しく思えてくる中、有名シェフまでコンテストに乗りこんでくるとわかってディライラの勝算もおぼつかなくなってきて……。

 

 ディープディッシュピザ、おいしそうですね~。宅配チェーンのピザ屋さんでは見かけたことないけど、どこかのレストランでなら食べられるかしら。コージーミステリの例にもれず、このシリーズにもうざい元彼やら口うるさい大おばさん、ちょっと気になる刑事さん、“骨太”ネコチャンなどなど、クセのあるキャラたちがそろっていてサイドストーリーにも事欠かない雰囲気が楽しみです。

 

お次はスリラーミステリ。

『You Should have Known』 by Rebecca A. Keller

シリーズ:non

カテゴリ:スリラー

 

 看護師の職を引退して高齢者向けアパートメントで暮らすフラニーは、ふとしたことからとなりに住むキャサリンの夫が裁判官だと知った。しかも最愛の孫娘の死になんらかのかたちでかかわっていたにちがいない男だ。復讐したい気持ちと医学的知識にそそのかされるようにして、カートに乗せておいてある医薬品に細工をしてしまったフラニーだが、その翌日に別の人が死んでしまったことで、自分がしたことの重大さに気づいた。

 警察の捜査がはじまり、フラニーには無実であることがわかっているある人物に容疑がかけられる。後悔にかられたフラニーはなんとか事態を収拾しようとするが、思っていた以上に複雑な背景が見えてくる。

 

 高齢者が主役となって事件解決にあたるミステリ作品、最近多いですよね。それだけ高齢者の数も増えてるし、ひと昔前よりずっと元気だし、それぞれの人生経験は平凡なようでいてもいろんな知見を持っているから、面白い作品が増えてくるのも必然かもしれない。

 でも元医療関係者という経歴があって、ちょっと魔が差したせいで加害者になってしまうところからの探偵役というのは、めずらしいかも? 『かくて彼女はヘレンとなった』のキャロライン・B・クーニーが好きな人におススメ、ともあるのでご参考に。

 

 4月にはこのほか、ケイト・モートン『Home Coming』、メアリー・ヒギンズ・クラーク『Where Are the Children Now?』、エリー・グリフィス『The Last Remains』(Ruth Galloway #15)、デニス・ルヘイン『Small Mercies』も出ました。

 

そしてSFはこちら。

『The Blind Spots』 by Thomas Mullen

シリーズ:non

カテゴリ:SF

 

 7年まえ、わずか数か月のあいだに世界中の人間が視力を失った。人々が新しい日常(ニューノーマル)になじめたのは、最新のテクノロジーによって視力に近い映像を脳に直接ダウンロードできるデバイスが開発されたおかげだ。だがその映像が故意にねじ曲げられたとしたら……?

 〈失明禍〉以前から殺人課の刑事だったマーク・オーウェンズは、ある科学者が殺された事件で唯一の目撃者が「犯人はとつぜん視界から消えた」と証言したとき、まったく信じようとしなかった。だがそれと同じ状況で、彼の目のまえで殺人事件が起きた。自分の見ているものすら100%は信用できないというなかで、どうやって捜査しろというのか?

 

 アンソニーホロヴィッツスティーブン・キングケン・フォレットらが絶賛する作家さんですが、まだ邦訳はないのかな? 本作は映画『マイノリティ・リポート』(原作はフィリップ・K・ディック)以来の独創的な犯罪小説、と銘打っているあたりも気になるポイントです。

 

 

とりあえずここまで。

5月刊行分は近日中に。きっと。

 

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気になる新刊 ~2023年3月~

やれやれ、半年がかりのお仕事がどうにか〆切に間に合いまして(それでも当初予定より半月延ばしてもらったけど)、無事に終われたことに心底ホッとしているところです。

これでようやく読書に割ける時間がもっととれるようになる! というわけで3月発売の新刊ですよ~!

今月はなんだか既訳のある作家さんたちの新刊も大漁です。こちらもお見逃しなく!

 

What Have We Done (English Edition)

What Have We Done (English Edition)

Amazon

『What Have We Done』 by Alex Finlay

シリーズ:non

カテゴリ:スリラー

 

 〈セイヴィア・ハウス〉で育った子供たちは“ふつうの子供時代”というものを知らない。ここを巣立った4人はいま、それぞれの道を歩んでいる。施設を出てから25年、彼らが再会することになった理由はたった1つ――誰かが彼らを殺そうとしているから。

 そうならないためには、過去を振りかえって悪夢のような子供時代と向き合わなければならない。

 

 親族のもとで暮らすことができずに養護施設で育つ子供たちにとって、仲間と何かしらのきずなができることは心強いことではあるのかもしれないけれど、そのきずながどのように育まれるのかは、それもまた運しだい。単純にうまが合うから仲良くなって……とはいかないだろうけど、本作はもしもそれが暗い秘密を共有することだったら――というストーリーらしいです。謳い文句によると、ピーター・スワンソンやリサ・ジュエル、カリン・スローターあたりのファンにお勧めとのことなので、期待しています。

 

 今月はこのほかにジョイス・キャロル・オーツ『48 Clues into the Disappearance of My Sister』、ハーラン・コーベン『I Will Find You』、ジェイムズ・パタースン『Countdown』、ピーター・スワンソン『The Kind Worth Saving』なども発売されました。個人的にはこのところハーラン・コーベンにハズレなし、の状態なので、これも楽しみ。そしてスワンソンの新作はあの『そしてミランダを殺す』の続編! ヘンリー・キンボールとリリー・キントナーのシリーズということになってるようです。邦訳が待ちきれません!

 

 

『Vera Wong’s Unsolicited Advice for Murderers』 by Jesse Sutanto

シリーズ:non

カテゴリ: コージーミステリ

 

 60歳の自称〈お茶の専門家〉、ヴェラ・ウォンがなによりも楽しみにしているのは、薫り高いウーロン茶を片手に息子の社交生活を“調査”すること。それなのに、ある朝、自宅1階のティーショップに男性の死体が転がっているのを発見! 警察なんかより自分のほうがよっぽどうまく真実を見つけだせると自信満々なヴェラ。その根拠は――だって、悪事を嗅ぎつけるのにひまをもてあました中国系母ちゃんほどの適任者なんていないでしょうが!

 

 著者はジャカルタシンガポールを行き来しながら育ち、オックスフォードを卒業した才媛だとか。これまでにもロマンティックコメディなどでヒット作を出しているようなので、ユーモアたっぷりのコージーにも期待できそう。

 

 今月はローラ・チャイルズの〈お茶と探偵〉シリーズ25巻『Lemon Curd Killer』、リタ・メイ・ブラウンに〈トラ猫ミセス・マーフィ〉シリーズ31巻『Hiss & Tell』なんかも出ましたよ。

 

『The New One』 by Evie Green

シリーズ:non

カテゴリ:SF

 

 タムシンとエドにとって人生は楽しいものではなかった。長時間労働なのに給料は安く、家に帰れば気分屋で反抗的な娘スカーレットが待っている。ところがスカーレットが事故にあって昏睡状態になり、手詰まりかと思ったところへ臨床試験の話が持ち上がった。娘に治験を受けさせ、家具家電完備のアパートメントと限度額なしでお金を使える口座を与えられるかわりに、スイスに移住して娘のコピー人間と暮らすことに同意しなければならない。

 失うものとて何もない夫婦は一も二もなく受け入れることにした。AIを搭載したソフィはまるで娘が戻ってきたように感じさせてくれた――しかも、悪いところが全部なくなっている。何ごとにも積極的でいつも機嫌がよく、両親といっしょにいたがってくれるなんて。

 やがてスカーレットが健康を回復すると、一家はこの治験を実施する団体の思いがけない側面を目の当たりにすることになる……。

 

 亡くした家族の代わりに人工知能を持ったアンドロイドと暮らす話というとキャス・ハンター『iレイチェル』というのがありましたね。あれはなかなか切ない終わり方だった記憶がありますが、こちらはスカーレットが元気になって帰ってくるわけで、しかも両親にとってはコピーのほうが好ましい娘だったというあたり、波乱の予感がしますねぇ。カズオ・イシグロ『クララとお日さま』でもそんな感じのエピソードがあったような……。

 

 そしてエドワード・アシュトン『ミッキー7』の続編でこちらも映像化が決まっているらしい『Antimatter Blues』も今月発売でした。

 

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【紹介した作品が翻訳されました】『レンタル友人、はじめました』ローラ・ブラッドフォード

 過去にこのブログで紹介した作品が翻訳されます!

 3月9日発売とのこと。予約注文受付中です。

 過去記事はこちら。

kumyam.hatenablog.com

 

 翻訳を担当しているのは田辺千幸さん、リース・ボウエンの〈英国ひつじの村〉や〈貧乏お嬢様〉シリーズ、カリン・スローターの〈ウィル・トレント〉シリーズでもおなじみですね!

 

 コージーミステリはあちらでは大量に出版されているわりに翻訳されるものは少ないのがなんともはがゆいところ。こうしてまた新しいシリーズが紹介されるのはほんとにうれしいものです。原書房さん、ありがとう!

 

 

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