つぎはコレ読みたい ~積ん読は積ん徳なり~

積ん読は積ん徳。駆け出し翻訳者が毎月「コレ読みたい!」新刊本を紹介しています。ミステリ全般、コージーミステリ、SF&ファンタジーを中心に。

気になる新刊 ~2022年6月~

 梅雨に入ったと思ったらもう明けているなんてびっくりです! 想定外も想定外!

 でも面白そうな本が続々と出てくるのは想定内。絞りに絞り込んで、今月はSF作品2作を含む4作品をご紹介します。

『Choke Back the Tears』 by Mark Richards

シリーズ:Michael Brady #4

カテゴリ: スリラー

 

 長年漁師として働いてきたビリーは引退後、妻サンドラとともに田舎町で静かに余生を楽しんでいた。その二人が殺された。まるで中世の処刑のように残酷なやり方で。

 ビリーは現役のころに船が沈没する事故にあい、乗組員2名を喪った。彼らの遺族は恨みを持っていたかもしれないが、復讐にしてはなぜこんなに時間が経ってから? なぜサンドラまで巻き添えに?

 捜査を担当することになったマイケル・ブレイディはすぐに行き詰ってしまった。手がかりもない、動機も見当たらない、まるで完全犯罪だ。ここは刑事としての経験と勘で道を切り開くしかない。ただでさえ人手不足だというのに……

 

 シリーズ4作目。主人公ブレイディは「元警部」らしいのだけど、いまは役職として何になるんだろう? いちおう捜査チームのトップではあるみたい。1作目では、マンチェスターで敏腕警部として難事件解決に邁進していた彼がひき逃げされそうになり、妻が巻き添えになって死亡したショックで警察を離れ、13才の娘を連れて故郷のホイットビーにひっこんだらそこで事件に遭遇し……という話で、それ以来ホイットビーでまた警察の仕事をしてはいるもよう。ティーンエイジャーの娘との仲がぎくしゃくしてるのもサイドストーリーとして深みを出してるっぽいのも気になるポイント。

 

今月はほかに、〈ウィル・トレント〉シリーズ他でおなじみカリン・スローターのノンシリーズ『Girl, Forgotten』、『見知らぬ人』の評判が高かったエリー・グリフィス『The Locked Room』、絶好調の〈ワシントン・ポー〉シリーズ新刊(5作目)M.W.クレイヴン『The Botanist』も出てますね。

 個人的にはスローターの単発物は(しんどすぎるので)ちょっとお休みしたい気分。今月翻訳が出た『偽りの眼』もとりあえず保留してるし。グリフィスはRuth Gallowayシリーズのほうが気になってるんですが、こっちは翻訳されないのかしら? シノプシス書いてみるかな? 

 

 続いてコージーミステリ。アレに似てるらしいですよ……

『The Tuesday Night Survivor’s Club』 by Lynn Cahoon

シリーズ:Survivor’s Book Club #1

カテゴリ:コージーミステリ

 

 乳がん治療をのりこえたレアリティ・コールは、こんどは自分が人々を癒す側になろう、とヒーリングに関する本をあつめた書店を始めることにした。西洋医学はもちろん、東洋医学や食餌療法、瞑想法などなど。そしてなによりも大事だと思う仲間づくりのため、サバイバーのための読書クラブも開始した。ニューエイジ運動の盛んなアリゾナ州セドナはそんな活動にぴったりな町だ。

 ところが、読書クラブのメンバーのひとりが行方不明になった。マーサはあまり自分のことを話すタイプではないけれど、愛犬を友人に預けたまま道ばたに車を置き去りにしていなくなるなんて、どう考えてもおかしい。いったいマーサに何が起こったの?

 

 リン・カフーンは以前『Guidebook to Murder』をとても面白く読んだのでこれも期待できそう。雰囲気としてはリチャード・オスマン『木曜殺人クラブ』に似ているらしい。タイトルからして寄せていってる感があるし。明るく前向きながんサバイバーの活躍が楽しみ。

 

 最近よく見る設定? 二番煎じと侮ってはいけません。

『The Men』 by Sandra Newman

カテゴリ:ディストピアSF

 

 8月の終わりに家族とキャンプを楽しんでいたジェーン・ピアソンは、テントのそばにつるしたハンモックでまどろんでいた。まさかその瞬間に、夫レオと5歳の息子ベンジャミンがふっと消えてしまうとは夢にも思わずに。だがそれは世界中でいっせいに起きていた。Y染色体を持つすべての人間、すなわち男たちが、大人も子供も胎児までも、一瞬にしてこの世から消えてしまったのだ。

 残された女たちは愛するものを喪った悲しみにひたるひまもなく世界を再構築しなければならなかった。ジェーンも学生時代の友人エヴァンジェリンとともに新しい世界に秩序をとりもどそうと奮闘していた。そんな中、ある動画がネット上で拡散された。『男たち』というタイトルのその動画には、荒涼とした見知らぬ風景の中を黙々と歩む男たちの姿が映っていた。ただのフェイクなのか、それとも男たちが消えた謎を解く鍵なのか?

 

 ざっくりした設定だけ見るとクリスティーナ・スウィーニー=ビアード『男たちを知らない女』みたいな感じですが、こちらはウィルスのせいではなく男たちが消えているし、Y染色体を持つもの、てあたりが何やら陰謀がありそうな、ある種のテロを想起させますね。世界が女だけになったらなったで、その中で対立も闘争もそりゃあるでしょうから、そっちを描くのが主眼なのかしら。

 

 今月もう1つのSFは実力派作家による思考実験的な作品。

『January Fifteenth』 by Rachel Swirsky

カテゴリ:近未来SF

 

 1月15日。

 中年にさしかかったハンナにとってこの日は、2人の子を連れて元妻の暴力から逃げ出した記念日。

 若きジャーナリストのジャネルにとってこの日は、かつて自分が反対していた政策について街行く人にインタビューするだけの面白みのない1日。

 裕福な大学生オリヴィアにとってこの日は、お坊ちゃんお嬢ちゃんが政府からもらったお金をどれだけ無駄遣いできるかを競い合う「ムダな日」。

 十代で妊娠中のサラにとってこの日は、他の妊婦たちと連れだって彼女たちのコミュニティをささえてくれるお金を受け取りに行く日。

 

 何かと話題のベーシックインカムが導入されたら、社会はどう変わる? 変わらない? 紹介文には女性たちの名前しかないけど、男性には男性の課題もあるはずなので、そのへんはどう描かれているんだろう? 

 レイチェル・スワースキーはこれまでおもに短編を書いてきた作家さんで、ネビュラ、ヒューゴースタージョンというメジャーな賞のショートリストにも入っている実力派。スペキュラティブ・フィクションていうとなんだか難しそうで腰が引けてたんだけど、この作品は中編以上長編未満な感じの短め作品なので、手始めとしてはよさそう。

 

 最初にご紹介した Choke Back the Tears はシリーズ既刊の4作すべて、Kindle Unlimitedで読めます。洋書はまだ読み切れるか不安、という人もぜひ挑戦してみてほしいなぁ。

 

 

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