いつまでも夏のような気温が続いたと思ったら急に寒くなりました。私はわりと気温とか気圧の変化に強い体質らしくてのんきにしておりますが、みなさま体調にはお気をつけて読書をお楽しみくださいね。
まずはシカゴを舞台にしたミステリから。
『As the Wicked Watch』 by Tamron Hall
シリーズ:Jordan Manning #1
カテゴリ: スリラー
長年テキサスで事件記者の経験を積んできたジョーダン・マニングは、全国ネットのニュースでアンカーをつとめるという夢に一歩近づいた。シカゴのテレビ局に採用されたのだ。ニュースルームでほとんど唯一と言える有色人種女性ながら、その才知と物怖じしない積極性で頭角をあらわしていくジョーダンは、トレードマークとなったデザイナーブランドのスティレット・ヒールで誰よりも速く現場にかけつける。法医学修士の肩書に裏付けられた彼女のするどい目はどんなに小さな手がかりも見逃さない。そうやって大事件を報道し、声なき者の声を世に届けるのだ。
ジョーダンは黒人女性が殺された事件をひたすら報道し続けたが、その多くはあっという間に忘れ去られてしまう。そんなある日、15才の少女メイジーの惨殺死体が発見された。こんどこそ事件を埋もれさせてはならないと決意したジョーダンは、他の仕事も私生活もわきに置いて調査にのめりこんでいく。
Black Lives Matterが話題になったのはつい去年のことですが、これもまたすでに人々の意識からは薄れ始めているように思われるのはなんとも歯がゆいことです。こうしたエンタメ作品からも、当事者のそういう悔しさとか無念さとかをより身近に感じられるかも。
このほかの今月発売される注目作は、『カササギ殺人事件』『ヨルガオ殺人事件』につづく〈ホーソーン&ホロヴィッツ〉シリーズ第3弾 A Line to Kill 。今回は離島で開かれる文学フェスに招待されたふたりが地元名士の殺人事件に挑む、ある種の密室モノのようです。きっと翻訳はされると思いますが、タイトルはやっぱり『カタカナ4文字+殺人事件』になるのかしら?笑
さてコージーははやくもクリスマス気分ですよ!
『The Enemy You Gnocchi』 by Catherine Bruns
シリーズ:Italian Chef Mystery #3
カテゴリ:コージー
亡き夫の意を汲んでイタリアン・レストランを営むテッサ・エスポージトはいま、目前にせまった毎年恒例の〈光のフェスティバル〉に向けた準備で大忙し。それは先ごろエスプレッソ・バーを開店したばかりのマリオ・ルッソとて同じ。ところが、フェスのオープニング早々、サンタ姿のマリオの死体が見つかる。
マリオの店は、昔から町の人々の憩いの場となっていたコーヒーハウスの顧客を奪い、コーヒーハウスを苦境に追い込んでいた。マリオはいったい誰の恨みを買ったのか? 親友に向けられた疑いをなんとしても晴らそうと、テッサは調査を開始する!
2019年のダフネ・デュ・モーリア賞受賞作家による人気シリーズ。受賞作とは別シリーズですが、どのシリーズも高く評価されているのが実力の証なのでは。はやくもクリスマスらしいカバーが気分を盛り上げてくれます。
カレンダー上ではまもなくハロウィンなわけですが、コージーミステリ界隈でははやくもクリスマスムード一色! というわけで、この10月だけでもクリスマスをテーマにした作品が目白押しです。今回はその一部ながら別記事にまとめてみました。カバーイラストを眺めるだけでもうきうきしてきますよ~。
最後にSFからも。
『Trashlands』 by Alison Stine
シリーズ:non
カテゴリ:ディストピアSF
度重なる洪水と潮流の変化によって海岸線がすっかり様変わりした世界では、新たなプラスチックの製造が禁止され、廃棄物が通貨となっていた。アパラチア山脈のふもとに広がるゴミ処理場はその一角にあるストリップクラブの名をとって《トラッシュランド》と呼ばれ、クラブのオーナーが一帯を仕切っていた。
トラッシュランドの片隅で暮らすコーラルは、河川や森林地帯でプラスチックを回収するのを仕事にしている〈プラッカー(収集者)〉だ。なんとかお金をためて、リサイクル施設で働かされている息子をとりもどすことを願っている。その一方で、自由になるわずかな時間で取り組んでいるのがアートだ。
沿岸部からやってきた記者のすすめで、コーラルに転機が訪れる。だが、未来を自分で選び取るなんてことができるのだろうか?
前作『Road out of Winter』で2021年度フィリップ・K・ディック賞を受賞した作家の新作。前作もそうだが、本作も地球の気候変動のその後の世界で生き抜こうとする女性を描いている。今回はさらに、アートという要素が加わった。人間が生きていくには、単に命を長らえることにとどまらず、美しいもの、心ふるわせるものが必要であることをコロナ禍で実感した人も多いと思う。こういう作品で読書会がしたいな……。
上で触れたRoad out of Winter、昨年このブログでも紹介しておきながらいまだに積んであるんですが(汗)、フィリップ・K・ディックを獲ったとなるとそのうち創元かハヤカワあたりで翻訳される可能性もありますねぇ。そうなったらなったでうれしいし楽しみです。
ではまた来月!